第1部 現実支払価格と課税価格
論点1N 取引価格方式を使えないときの順序
第60回(令和8年)対応|法令・告示・通達の基準日:2026年7月1日
判断課題
無償見本、委託販売品、特殊関係で価格影響がある貨物の課税価格は、任意に見積もってよいか。
原則
取引価格が使えなくても、自由見積りには進まない。法定順序で進む。
取引価格方式 ×
↓
同種貨物 → 類似貨物 → 逆算方式 → 積算方式 → 特殊な方法
└────────┘
申出により順序交換可
逆算方式と積算方式は、輸入者が希望する旨を税関長に申し出たときに限り、順序を入れ替えられる。
| 方法 | 使う価格・原価 | 主な条件・調整 |
|---|---|---|
| 同種・類似貨物 | 現に取引価格方式で課税価格とされた貨物の取引価格 | 本邦への輸出日が同日又は近接日で、同じ生産国。取引段階・数量、運賃等の差異を資料に基づき調整する。同種が類似に優先し、同種どうし・類似どうしでは当該輸入貨物の生産者が生産したものが優先する。それでも複数あるときは最小の価格。 |
| 逆算方式 | 特殊関係のない国内買手への国内における最初の取引段階の国内販売価格 | 単価が異なる販売が二以上あるときは、販売数量が最大である販売に係る単価を使う。通常の手数料又は利潤・一般経費、輸入港到着後の国内運送関連費用、本邦の関税その他の公課を控除する。 |
| 積算方式 | 製造原価 | 輸入者と生産者との間の取引に基づき本邦へ到着し、原価を確認できること。通常の利潤・一般経費と輸入港までの運賃等を加える。 |
| 特殊な方法 | 先行方法を合理的に調整した価格等 | 先行方法で決定できない場合に進む。 |
取引価格方式を離れる理由は、輸入取引によらない輸入(そもそも売買がない)と、輸入取引はあるが特別な事情がある(法4条2項)の二つに分かれる。後者は次の4類型に限られる。
- 買手による輸入貨物の処分又は使用につき制限がある(買手による販売が認められる地域の制限、法令により課される制限、価格に実質的な影響を与えないと認められる制限を除く)。
- 輸入貨物の取引価格の決定を困難とする条件が付されている(例えば、その輸入貨物の取引価格が、売手・買手間で取引される別の貨物の取引数量に依存して決まる旨の条件)。
- 買手による処分・使用による収益で売手に帰属するものがあり、その額が明らかでない。
- 売手と買手が特殊関係にあり、それが取引価格に影響を与えている。
| 取引価格方式を使えない事例 | 使える可能性がある事例 |
|---|---|
| 贈与、無償サンプル、委託販売、賃貸借、本支店間移動。 | 売買による輸入で、現実支払価格と加算要素が立証できる。 |
| 売手の代理人により輸入され、その後売手の計算と危険負担で国内販売される貨物(売買契約の履行として輸入される場合を除く)。 | 売手・買手間の売買契約を履行するために、売手の代理人を通じて輸入される。 |
| 買手が本邦に住所・本店等を有しない者である取引(輸入取引に該当しない)。 | 外国の売手と本邦に居住する買手との通常の売買。 |
| 処分制限が価格へ実質的に影響する。 | 販売地域の制限、法令上の制限、価格へ実質的影響のない制限だけがある。 |
| 特殊関係が取引価格へ影響する。 | 特殊関係はあるが価格へ影響しない。 |
結論を分ける事実
無償だから「課税価格ゼロ」ではない。取引価格方式を離れる理由を確定し、次の方法へ順番に進む。
典型的なひっかけ――誤った考え方
- 同種貨物と類似貨物の価格が競合するとき、類似貨物を優先するという順序の誤り。
- 同種・類似貨物の適切な価格が複数ある場合に平均するという誤り。生産者が同一かどうかで絞り、なお複数なら最小の価格を用いる。
- 逆算方式で、単価の高い販売や取引件数の多い販売を選ぶ誤り。選ぶのは数量が最大の販売に係る単価である。
- 輸入者の希望がないのに、積算方式を逆算方式より先にする順序の誤り。
- 法令により課される処分・使用の制限があることを、取引価格方式を排除する事情と考える誤り。除外される制限に当たる。
ミニドリル
無償輸入品について、同時期・同国産の同種貨物の適切な取引価格45,000円と、類似貨物44,000円がある。差異調整は不要。どちらを先に使うか。
解答
同種貨物45,000円。類似貨物より同種貨物を優先する。
変質・損傷があった場合
同じ損傷でも、いつ生じたかで制度が変わる。
| 変質・損傷が生じた時点 | 処理 | 根拠 |
|---|---|---|
| 課税物件確定の時(通常は輸入申告の時)まで | 損傷がなかったものとした課税価格から、減価相当額を控除する。どの評価方法でも同じ。 | 関税定率法4条の5 |
| 課税物件確定の時の後、輸入許可まで | 課税価格は変えず、関税の軽減で扱う。 | 関税定率法10条1項 |