第7部 通関業法の論点
論点7L 通関業者・通関士の義務――義務ごとに「主体の広さ」が違う
第60回(令和8年)対応|法令・告示・通達の基準日:2026年7月1日
過去問実績: 第54〜59回で7問。内訳は秘密を守る義務・信用失墜行為の禁止が6問(5回)、料金の掲示が1問(1回)。主な根拠条文: 通関業法第17〜20条・第33条。
判断課題
問題文が挙げる義務の主体は、通関業者だけか、通関士も含むか、一般の通関業務の従業者にまで及ぶか。
原則
第4章の義務規定は主体の広さがそれぞれ異なり、そこが出題の核である。①名義貸しの禁止は、通関業者が名義を他人に「通関業」のため使用させることを禁じ(通関業法第17条)、通関士が名義を他人に「通関業務」のため使用させることを禁じる(通関業法第33条。第32条第1号により通関士でなくなったが第22条第2項の異動の届出がされていない者を含む)。②料金の掲示(通関業法第18条)は通関業者の義務で、通関業務および第7条の関連業務の料金の額を営業所において依頼者の見やすいように掲示する。認可制でも届出制でもない。③秘密を守る義務(通関業法第19条)と④信用失墜行為の禁止(通関業法第20条)は、次のとおり主体と効果が対照的である。
| 秘密を守る義務(通関業法第19条) | 信用失墜行為の禁止(通関業法第20条) |
|---|---|
| 主体: 通関業者(法人はその役員)、通関士、その他の通関業務の従業者 | 主体: 通関業者(法人はその役員)および通関士のみ。一般の従業者は含まない |
| 内容: 正当な理由がなくて、通関業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならない | 内容: 通関業者または通関士の信用または品位を害するような行為をしてはならない |
| 存続: 「これらの者でなくなつた後も、同様とする」。退職後も義務が続く | 存続: 同旨の規定はない。その地位にある間の義務である |
| 罰則: 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(通関業法第41条第1項第3号)。親告罪であり両罰の対象外 | 罰則: なし。監督処分・懲戒処分の事由となるにとどまる |
結論を分ける事実
- 条文の主体に「その他の通関業務の従業者」が入っているか。
- 名義を使用させた目的が「通関業」(通関業法第17条・業者)か「通関業務」(通関業法第33条・通関士)か。
- 掲示すべき料金に関連業務が含まれるか。
- 秘密の開示に「正当な理由」があるか。
典型的なひっかけ――誤った考え方
- 料金掲示の対象を通関業務のみとする誤り。関連業務の料金も含む。料金が財務大臣の認可制・届出制だという思い込みも誤りで、義務は掲示のみである。
- 秘密保持義務の主体を業者と通関士に限る誤り。「その他の通関業務の従業者」も含み、退職後も義務は存続する。
- 信用失墜行為の禁止の主体に一般従業者も含まれるという誤り。第20条は通関業者(法人は役員)と通関士に限られる(秘密保持との主体の違いが狙われる)。
- 「正当な理由」があっても秘密を開示できないという誤り。税関職員の質問検査への応答など正当な理由があれば違反とならない。
- 名義貸しに拘禁刑があるという誤り。業者・通関士のいずれの名義貸しも第44条の30万円以下の罰金である。
ミニドリル
A:通関業者の営業所で通関業務の事務補助をしていた従業者甲が、退職後、在職中に知った依頼者の取引先名と単価を第三者に漏らした。B:通関士乙が、通関業務と直接関係のない場面で通関士の品位を害する行為をした。それぞれ通関業法上の義務に違反するか。
解答
Aは第19条違反となる。同条の主体には「その他の通関業務の従業者」が含まれ、かつ「これらの者でなくなつた後も、同様とする」と定められているため、退職後の漏えいも義務違反であり、第41条第1項第3号の罰則(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)が及ぶ。ただし同条第2項により告訴がなければ公訴を提起できない。Bは第20条違反となりうる。同条は行為の場面を限定しておらず、主体に通関士が含まれるため、第35条の懲戒処分の対象となる。仮に乙が通関士でない一般の従業者であれば、第20条の主体でないため同条違反は問題とならない。
最低限おさえる型
秘密保持=業者(法人は役員)・通関士+その他の従業者、辞めた後も(違反は親告罪)。信用失墜=業者(役員)・通関士のみ。料金は掲示制(関連業務込み)。名義貸しは業者(通関業法第17条・通関業のため)も通関士(通関業法第33条・通関業務のため)も禁止で、いずれも30万円以下の罰金。